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映画コラム

映画『リトル・ダンサー』アダム・クーパーが踊る『白鳥の湖』は何がすごいのか

(この記事は映画『リトル・ダンサー』のラストシーンに関する記述があります。ネタバレにならない程度の言及に留めていますが、ラストを知りたくない方はご注意ください。)

2000年の映画『リトル・ダンサー』(原題:Billy Elliot)は、スティーブン・ダルドリー初の長編映画監督作品です。サッチャー政権下のイギリス炭鉱街を舞台にバレエダンサーを目指す少年ビリーと家族の物語が繰り広げられます。

映画は大人になったビリーが『白鳥の湖』を踊るシーンで幕を閉じますが、ラストの『白鳥の湖』には、とある仕掛けが隠されています。その仕掛けを解き明かすキーとなるのが、アダム・クーパーAMP版『白鳥の湖』です。

このコラムでは、アダム・クーパーとAMP版『白鳥の湖』というキーワードを基に、『リトル・ダンサー』のラストシーンについて紐解いていきたいと思います。

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『リトル・ダンサー』のラストシーン考察…の前に

リトル・ダンサーのクライマックス、ビリーの父と兄がロンドンの劇場に駆けつけ着席したシーンから流れる音楽は、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲のバレエ音楽『白鳥の湖』です。この舞台で大人になったビリーはスワン(白鳥)を演じます。

このクライマックスには、バレエに詳しい人でないと見逃してしまう演出が隠れているのです。

順を追って解説していきます。

バレエ『白鳥の湖』とは

まずはバレエ『白鳥の湖』について、簡単に説明します。(ご存知の方は読み飛ばしてください。)

ロシアの作曲家、チャイコフスキーが作ったバレエ音楽『白鳥の湖』は、1877年ロシアで初演されました。初演時の評価は高くなかったと言われています。

しかし、作曲家の死後、追悼演奏会で上演されたことにより再評価され、1895年、台本や曲順などを大幅に改訂したプティパ=イワノフ版が生まれました。
このプティパ=イワノフ版の誕生がきっかけで、『白鳥の湖』は世界的に人気が高まり、三大バレエとして最も有名なクラシックバレエのひとつになりました。

現在ではプティパ=イワノフ版がオリジナル版と呼ばれています。

『白鳥の湖』の特徴・みどころ

バレエ『白鳥の湖』は、呪いによって白鳥に変えられてしまったオデット姫と人間の王子ジークフリートの悲恋がテーマとなっています。

主な登場人物

  • オデット姫:呪いにより白鳥に姿を変えられた王女
  • ジークフリート:結婚相手を探さなければならない王子
  • ロットバルト:オデット姫に呪いをかけた悪魔
  • オディール:ロットバルトの娘。黒鳥。

このバレエの見所のひとつは、王子ジークフリートを騙す黒鳥のオディールをオデット姫と同じバレリーナが演じることでしょう。対照的な役柄の2役を演じ分けることから、非常に高い表現力と技術力を求められることで知られています。
映画『ブラック・スワン』では、ナタリー・ポートマンが白鳥/黒鳥を演じるバレリーナ役を演じていました。

もうひとつの見どころはオデットと共に白鳥に変えられてしまった侍女たちによるコール・ド・バレエ(群舞)です。白いパニエを来た12人のバレリーナたちが手先・足先まで揃えて踊る様子が美しいことで知られています。

『リトル・ダンサー』のラスト『白鳥の湖』考察

『リトル・ダンサー』のラストでは、白鳥の群舞の後、大人になったビリーが主役の白鳥として、舞台に飛び出していきます。

ここで「あれ?」っと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

本来『白鳥の湖』の主役である白鳥は、バレリーナ(女性)がパニエを付け優雅に踊るものです。群舞の白鳥も、もちろん女性のバレリーナたちが踊ります。

しかし、映画ラストの『白鳥の湖』では、主役の白鳥をビリーが、群舞の白鳥たちも男性ダンサーが務めているのです。

一体どういうことなのでしょうか?

ボーン版(AMP版)『白鳥の湖』とは

映画化されたボーン版『白鳥の湖』

実は、ラストで上演されている『白鳥の湖』は通常のクラシックな演出・振付のプティパ=イワノフ版ではなく、ボーン版と呼ばれるモダンな『白鳥の湖』なのです。

先述した様に『白鳥の湖』は、プティパ=イワノフ版がオリジナル版として扱われていますが、チャイコフスキーによる原点版も存在しており、それらを基に多くの振付家がストーリーの改変や曲順の入れ替え、振付の変更など独自の解釈で上演しています。ボーン版は、その中でも特に有名なバージョンです。

イギリスの振付家マシュー・ボーン(Matthew Bourne)による『白鳥の湖』は、ストーリーの大筋が男性同士の悲恋物語へと大胆に変更されています。主役のスワン(白鳥)と群舞の白鳥は、男性ダンサーによって演じられ、主役は一人二役で黒い服に身を包んだストレンジャーも演じます。

初演は1995年イギリス・ロンドン。1998年にはブロードウェイ公演を行い、第53回トニー賞ではミュージカル主演男優賞ノミネート、最優秀ミュージカル演出賞・振付賞・衣裳デザイン賞の3部門受賞しました。

この初演&ブロードウェイ公演でスワン/ストレンジャーを演じたダンサーが、『リトル・ダンサー』で大人になったビリーを演じたアダム・クーパーなのです。

多才なダンサー、アダム・クーパーとは

アダム・クーパー(Adam Cooper)は、1989年〜1997年までロイヤル・バレエ団に在籍していたバレエダンサーです。1994年からはプリンシパルとして活躍していました。

現在は俳優としても活躍しており、2012年ミュージカル『Singin’in the Rain 〜雨に唄えば』では、主役を演じ見事な演技とステップで話題を呼びました。

日本でも人気が高く、2022年には『Singin’in the Rain 〜雨に唄えば』、2023年10月からは『レディ・マクベス』で日本の舞台に立っています。

アダム・クーパーがビリーを演じたラストシーン

映画『リトル・ダンサー』は、2000年の作品です。ボーン版『白鳥の湖』初演が1995年、アダム・クーパーのロイヤル・バレエ団退団が1997年、ブロードウェイ公演を行ったのが1998年ということで、当時の空気感が想像できるかと思います。(ビリーの幼少期は1984年、大人になったシーンは1988年という設定です。)

作中でビリーはロイヤル・バレエ学校を受験し、見事合格します。ロイヤル・バレエ学校の卒業生であるアダム・クーパーが大人になったビリーを演じるというのは、リアリティがあると言えるでしょう。

ジャンプで始まりジャンプで終わる『リトル・ダンサー』

『リトル・ダンサー』は、幼少期のビリーがベッドの上で飛び跳ねるシーンで始まり、アダム・クーパー演じる大人になったビリーが美しい跳躍を見せるシーンで幕を閉じます。

このラストシーンのジャンプは、物語が続いていくことが示唆されているのではないかと私は考えています。あの短時間で場を支配したアダム・クーパーの演技がこの作品を特別なものにしてくれたと思います。

家族愛や友情など、バレエ以外の側面も素晴らしい作品ですが、ラストシーンの意味がわかるとより楽しめるのではないか…と思いまとめてみました。

文・構成
Filmmusik 管理人

映画の素晴らしさをもっと多くの人に伝えられたら…そんな気持ちでFilmlmusikを開設。
音楽・映画好きの管理人自ら執筆しています。

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