黒澤明監督のモノクロ映画『生きる』は、1952年に東宝創立20周年記念映画として製作されました。
レフ・トルストイの『イワン・イリッチの死』に触発された黒澤明が橋本忍と小國英雄と共に脚本を執筆、主役の渡辺を演じたのは、黒澤作品に欠かせない俳優として知られる志村喬です。
第4回ベルリン国際映画祭では、金熊賞にノミネートされ、ベルリン市政府特別賞を受賞しました。
2022年にはカズオ・イシグロによる脚本でリメイクされ、第95回アカデミー賞では主演男優賞・脚色賞にノミネートされました。
『生きる』の挿入曲
『生きる』の挿入曲を流れた順番に紹介していきます。(ネタバレにご注意ください)
息子夫婦が揃って帰宅する
(渡辺が胃潰瘍だと医師に告げられた夜に息子夫婦が揃って帰宅するシーン)
トゥー・ヤング
| Artist cover ver. | トニ・アーデン(Toni Arden, 1924-2012) アメリカの女性歌手。 |
| リリース | 1951年 |
| 作曲者 | シドニー・リップマン(Sidney Lippman, 1914-2003) アメリカの作曲家/ソングライター。 |
| シルビア・ディー(Sylvia Dee, 1914-1967) アメリカの作詞家/小説家。 | |
| Original ver. | 1950年、ビクター・ヤング・オーケストラ(Victor Young and His Orchestra) |
『Too Young』は、レコードレーベルによる新たな試みで、若い聴衆にターゲットを絞り作られた曲です。
ナット・キング・コールによるカバーバージョンが1951年のナンバーワン・ベストセラー曲として成功を収めたことで、若者が購買力を持っていることを証明する曲となりました。
息子の嫁が寝室で流す曲
(渡辺が仏壇の前に座り、亡くなった妻の写真をぼんやりと見ている時、2階の息子夫婦の寝室からこの音楽が聞こえてきています。)
| Artist cover ver. | トニ・アーデン(Toni Arden, 1924-2012) アメリカの女性歌手。 |
| リリース | 1951年 |
| 作曲者 | シドニー・リップマン(Sidney Lippman, 1914-2003) アメリカの作詞家/小説家。 |
| Original ver. | 1950年、ビクター・ヤング・オーケストラ(Victor Young and His Orchestra) |
「息子夫婦が揃って帰宅する」でもこの曲が使われていました。
渡辺が新しい帽子をかぶってバーに入る
邦題『二つの愛』
| Artist | ジョセフィン・ベーカー(Josephine Baker, 1906-1975) アメリカ生まれのフランスのダンサー/歌手/女優。 |
| リリース | 1930年 |
| 作曲者 | ヴァンサン・スコット(Vincent Scotto, 1874-1952) フランスの作曲家。生涯で4,000曲以上の歌曲、約60曲のオペレッタ、約50曲の映画音楽を作曲した。 |
| ジェオ・コジェ(Géo Koger, 1894-1975) フランスの作詞家。 | |
| アンリ・ヴァルナ(Henri Varna, 1887-1969) フランスのコメディアン/作詞家。 |
『J’ai Deux Amours』は、1930年にパリで上演されたジョセフィン・ベイカー主演のミュージカルレビュー『Paris qui remue』(ときめくパリ)のために書かれた曲です。
小説家がバーのマダムに渡辺の事情を話す
邦題『小声で』
| Artist | ダミア(Damia, 1889-1978) フランスのシャンソン歌手/映画女優。 |
| リリース | 1934年 |
| 作曲者 | ヴァンサン・スコット(Vincent Scotto, 1874-1952) フランスの作曲家。生涯で4,000曲以上の歌曲、約60曲のオペレッタ、約50曲の映画音楽を作曲した。 |
| ジェオ・コジェ(Géo Koger, 1894-1975) フランスの作詞家。 |
ジャズバーのピアニストが弾いている曲
| 作曲者 | ウィルバー・スウェットマン(Wilbur Sweatman, 1882-1961) アメリカのラグタイムとディキシーランド・ジャズの作曲家/バンドリーダー/クラリネット奏者。 |
| Original ver. | 1917年:ウィルバー・スウェットマン楽団(Wilbur Sweatman and His Jass Band) |
ジャズバーで渡辺がピアニストにリクエストして歌う曲
(渡辺が「いのち短し恋せよ少女」とリクエストし、ピアニストは「大正時代のラブソングね」と答えます。)
Gondola no Uta
| 作曲者 | 吉井勇(Isamu Yoshii, 1886-1960) 東京都生まれの日本の歌人/劇作家/小説家。 |
| 中山晋平(Shinpei Nakayama, 1887-1952) 長野県生まれの日本の作曲家。 |
『ゴンドラの唄』は、1915年(大正4年)に発表された歌謡曲です。大正2年に結成された劇団「芸術座」の第5回公演『その前夜』で新劇女優、松井須磨子らが歌った劇中歌でした。
ストリップクラブから出た渡辺が興奮して街を歩く
ビビディ・バビディ・ブー
| Artist cover ver. | ダイナ・ショア(Dinah Shore, 1916-1994) アメリカの歌手/女優/トークショーの司会者。 ラジオのオーディション番組をきっかけに歌手デビューを果たし、1940年代を通じてラジオ番組に出演し80のヒット曲をチャートインさせた。その後、テレビの音楽/バラエティー番組にも出演。 トークショーの司会を務めるなどアメリカを代表するテレビスターとして絶大な人気を博した。 |
| リリース | 1949年 |
| 作曲者 | アル・ホフマン(Al Hoffman, 1902-1960) ロシア系アメリカ人作曲家。 |
| マック・ゴードン(Mack Gordon, 1904-1959) アメリカの作詞家。映画『ハロー、フリスコ、ハロー』(1943) の『You’ll Never Know』を書いた事でアカデミー歌曲賞を受賞した。 | |
| ジェリー・リヴィングストン(Jerry Livingston, 1909-1987) アメリカのソングライター/ダンスオーケストラピアニスト。 | |
| Original ver. | 1949年:ジョー・スタッフォード & ゴードン・マクレエ(Jo Stafford and Gordon MacRae) |
『ビビディ・バビディ・ブー』(Bibbidi-Bobbidi-Boo)は、1948年に作られたコミックソングです。
1950年公開のディズニー・アニメーション映画『シンデレラ』(Cinderella)で使われ、より広く知られるようになりました。
タクシーに同乗した二人の女が歌う曲
邦題『家へおいでよ』
| Artist | ローズマリー・クルーニー(Rosemary Clooney) アメリカの歌手/女優、1928年ケンタッキー州メイズヴィル生まれ。 ジョージ・クルーニーの叔母。 |
| リリース | 1951年 |
| 作曲者 | ウィリアム・サローヤン(William Saroyan, 1908-1981) アルメニア系アメリカ人小説家/劇作家。 |
| ロス・バグダサリアン(Ross Bagdasarian, 1919-1972) アメリカの歌手/ソングライター/音楽プロデューサー/俳優。 |
『Come On-A My House』は、いとこ同士の二人(ウィリアム・サローヤンとロス・バグダサリアン)がアルメニアの民謡に基づいて作った曲です。
親しい人を招待し、果物・ナッツ・種子・その他の食べ物をテーブルにあふれんばかりに提供するというアルメニアの伝統的な習慣が歌われています。
渡辺が小田切とよの腕につかまりスケートをする
邦題『スケートをする人々』
| 作曲者 | エミール・ワルトトイフェル(Émile Waldteufel, 1837-1915) フランスの作曲家/ピアニスト/指揮者。 サロン音楽で人気を博し「フランスのヨハン・シュトラウス」「フランスのワルツ王」と呼ばれた。 |
| 作曲年 | 1882年 |
『The Skaters’ Waltz』(原題:Les Patineurs, Op.183)は、フランスの作曲家エミール・ワルトトイフェルが1882年に作った曲です。『スケーターズ・ワルツ』の通称でも知られています。
渡辺と小田切とよが訪れる喫茶店のBGM 1曲目
(とよが「何故自分と会っているのか」と渡辺にしつこく尋ねるシーン)
邦題『踊る人形』
| 作曲者 | エデ・ポルディーニ(Ede Poldini, 1869-1957) ハンガリーの作曲家。 |
| 出版年 | 1924年 |
『Dancing Doll』は、エーデ・ポルディーニが書いたピアノ曲『La poupée valsante』をオーストリア出身の世界的ヴァイオリニスト、フリッツ・クライスラー(Fritz Kreisler, 1875-1962)が編曲したヴァイオリンとピアノの為の小品です。
渡辺と小田切とよが訪れる喫茶店のBGM 2曲目
(喫茶店のBGMは、渡辺がとよに病気のことを告白するシーンからこの曲に変わっています。)
邦題『おもちゃの兵隊の観兵式』
| 作曲者 | レオン・イェッセル(Leon Jessel, 1871-1942) ドイツ生まれのユダヤ人作曲家。 |
| 作曲年 | 1897年 |
『Parade of the Tin Soldiers』は、1897年にピアノ独奏曲として作られ、1905年に作曲者自身によって管弦楽用に編曲されました。『おもちゃの兵隊の観兵式』の邦題で知られています。
喫茶店に渡辺と入れ替わりに入ってくる少女に友人たちが歌う曲
ハッピーバースデートゥーユー
| 作曲者 | マイルドレッド・J・ヒル(Mildred J. Hill, 1859-1916) アメリカのソングライター/音楽学者。 |
| パティ・J・ヒル(Patty S. Hill, 1868-1946) アメリカの保育園/幼稚園教諭。アメリカの非営利団体「全米幼児教育協会」の創設者。 | |
| 出版年 | 1917年 |
『Happy Birthday to You』は、アメリカ人のヒル姉妹が作詞・作曲した誕生日をお祝いする曲です。この曲は、世界で最も歌われている英語の曲としてギネス世界記録に認定されています。
日本では、作詞家の丘灯至夫が書いた日本語詩『お誕生日のうた』が、1950年代から童謡集に収録されています。
職場復帰した渡辺が公園建設陳情書に貼られたメモをクシャクシャに丸める
ハッピーバースデートゥーユー
| 作曲者 | マイルドレッド・J・ヒル(Mildred J. Hill, 1859-1916) パティ・J・ヒル(Patty S. Hill, 1868-1946) |
| 出版年 | 1917年 |
「喫茶店に渡辺と入れ替わりに入ってくる少女に友人たちが歌う曲」でもこの曲が使われていました。
雪の降る中、渡辺が公園のブランコに乗って歌う
| 作曲者 | 吉井勇(Isamu Yoshii, 1886-1960) 東京都生まれの日本の歌人/劇作家/小説家。 |
| 中山晋平(Shinpei Nakayama, 1887-1952) 長野県生まれの日本の作曲家。 |
「ジャズバーで渡辺がピアニストにリクエストして歌う曲」でもこの曲が使われていました。
『生きる』のサントラ
『生きる』は早坂文雄が音楽を担当しました。
早坂文雄は、1914年仙台生まれの作曲家です。「ゴジラのテーマ」で知られる伊福部昭らと「新音楽連盟」を結成し、戦後の音楽界を牽引する存在となりました。
また、『羅生門』(1950)『七人の侍』(1954)など、黒澤作品の音楽を担当したことでも知られています。
『生きる』キャスト・スタッフ
| 監督 | 黒澤明 |
| 脚本 | 黒澤明 |
| 橋本忍 | |
| 小國英雄 | |
| 製作 | 本木莊二郎 |
| 音楽 | 早坂文雄 |
| 配給 | 東宝 |
| 公開 | 1952年10月9日 |
| 1954年6月 | |
| 1956年5月 | |
| 上映時間 | 143分 |
渡邊勘治:志村喬
小田切とよ:小田切みき
市民課員「糸こんにゃく」木村:日守新一
市民課員「こいのぼり」坂井:田中春男
市民課員「ハエ取り紙」野口:千秋実
市民課員「どぶ板」小原:左卜全
市民課員「定食」齋藤:山田巳之助
市民課員「ナマコ」大野:藤原釜足
渡邊喜一:小堀誠
渡邊たつ(喜一の妻):浦辺粂子
渡邊光男:金子信雄
渡邊一枝:関京子
林(家政婦):南美江
病院の患者:渡辺篤
医師:清水将夫
医師の助手:木村功
野球場の男:深見泰三
飲み屋の店主:谷晃
小説家:伊藤雄之助
スタンド・バーのマダム:丹阿弥谷津子
キャバレーの女:登山晴子
キャバレーの女:安雙三枝
市役所助役:中村伸郎
公園課長:小川虎之助
土木課職員:河崎堅男
公園課職員:勝本圭一郎
総務課職員:瀬良明
下水課職員:長濱藤夫
総務課長:小島洋々
市会議員:阿部九州男
新聞記者:永井智雄
新聞記者:村上冬樹
新聞記者:青野平義
土木部長:林幹
ヤクザの親分:宮口精二
ヤクザの子分:加東大介
陳情の主婦:三好栄子
陳情の主婦:本間文子
陳情の主婦:三好栄子
陳情の主婦:本間文子
陳情の主婦:菅井きん
焼香する警官:千葉一郎
ジャズバー・ピアニスト:市村俊幸(特別出演)
ジャズバー・ダンサー:倉本春枝(特別出演)
ヌード・ダンサー:ラサ・サヤ(特別出演)


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